Last Updated 2020.12.29
ロードバイクの呼吸法は場面に応じて変える
ロードバイクに乗っていると何故呼吸が苦しくなってしまうのでしょうか。
ロードバイク乗車時の呼吸とは何かについて以前の記事をご覧ください。
ロードバイクに乗っている時にどういった呼吸の仕方をしたらよりよいパフォーマンスが出せるのか。ということにフォーカスして具体的な呼吸法について書いていきます。
運動すると呼吸が速くなるのは何故か
ロードバイク乗車時の呼吸とは何かについて考えた次は、何故ロードバイクに乗っていると呼吸が荒くなるのかを考えていきたいと思います。
運動すると呼吸が荒くなりますが、呼吸を速くしなさいという命令は何がきっかけで下されるのでしょうか。誰でも酸素が足りなくなったから呼吸が速くなると思うことでしょう。普通ならばそう考えると思います。そこで、パルスオキシメーターという体内の酸素がどれくらい入っているかを示す数値(血中酸素飽和度)が分かる機器を使用して色々な状況における血中酸素飽和度を計測してみます。
限界まで息を止めてみるとどうなるか
パルスオキシメーターを装着して限界まで息を止めてみます。
そうするとみるみる数値が下がっていきます。1分ほど経過してみるとパルスオキシメーターの数値は90前後になります。息を止めると血中酸素飽和度が下がっていき、90くらいで苦しくなって限界を迎えます。血中酸素飽和度90というのは、医療の場においては酸素吸入が必要といわれるレベルの数値です。
簡単に言うと酸素が足りない状態です。人間は酸素が足りなくなると苦しくなるということなのでしょうか。
低酸素の状況で安静時の血中酸素飽和度を計測してみる
酸素が足りなくなると苦しくなるとするなら、標高が高いような低酸素の状況ではどうなるのでしょうか。標高0mの平地の状況で空気の中に含まれる酸素の割合は約20%です。そこで標高2000m相当の場所に匹敵する酸素濃度16%という状況で普通に安静にしていたらどうなるのでしょうか。
この低酸素の状況でパルスオキシメーターを着けて、安静にして普通に呼吸していると血中酸素飽和度はどんどん下がり90以下になってしまいました。これは息を止めて限界になった時よりも低い数値です。しかし、呼吸は速くなっていませんし普通に呼吸ができます。これは一体何故なのでしょうか。
何故血中酸素飽和度は同じ90前後で酸素が足りていない状態なのに、息を止めると苦しくて低酸素状態ではまったく苦しくないのか。
このことから分かるのは、息を止めている時と低酸素状態の時の血中酸素飽和度はほぼ同じです。体内の酸素量は同じです。しかし、酸素が減ったから呼吸が速くなったり苦しくなったりするわけではないということです。
呼吸が苦しくなるのは二酸化炭素が増えるから
酸素が減っても呼吸を速くしなさいという命令は下されません。では、どういった時に息が苦しくなったり呼吸が速くなったりするのでしょうか。
答えは体内の二酸化炭素が増えた時です。
体内の二酸化炭素の量によって呼吸の速さが決まります。
息を止めていると二酸化炭素を吐き出せないので苦しくなります。低酸素状態では呼吸をして二酸化炭素を吐き出しているので、血中酸素飽和度が低くなっても苦しさを感じることはないのです。
息を止めて苦しくなるのは、酸素が減るからではなく二酸化炭素を吐き出せないからということなのです。呼吸が苦しくなった時、体は二酸化炭素を体外に排出しようとするのです。
息を止めると血中酸素飽和度が90前後に低下したあたりで苦しくなる。
低酸素状態で呼吸をしていると血中酸素飽和度は90以下になるが、まったく苦しいとは感じない。
人間が息苦しくなったり呼吸が速くなったりするのは、酸素が足りなくなった時ではなく二酸化炭素が吐き出せない時です。
ということが言えます。
低酸素状態で低負荷でペダリングしてみるとどうなるか
酸素が減っても呼吸は速くならないという事が、ロードバイクのライディング中にはどう影響するのでしょうか。
パルスオキシメーターを着けて、低酸素状態でローラー台に乗り負荷とケイデンスを一定(ケイデンス80・心拍数130台)にしてペダリングしてみるとどうなるでしょうか。高地でヒルクライムしているような状況です。
普段通りの呼吸でペダリングを続けていると、血中酸素飽和度はどんどん下がり80まで低下してしまいました。息を止めて苦しくなった90という数値を大幅に下回ってしまいました。これは低酸素状態で一応酸素がある状況でなければ命の危険のある数値といわれています。
しかし、低酸素状態で血中酸素飽和度が80でもそんなに辛さがくることはありません。心拍数も130台でそれほど負荷は高くありません。呼吸も速くなっていません。しかし、体内の酸素量はどんどん減ってしまっています。それに伴って運動能力は低下します。走っているといつの間にか酸欠になって実力を出せていない可能性が出てきました。
呼吸をペダリングに合わせてリズムを付ける
普通に呼吸してロードバイクに乗っているといつの間にか酸欠になって運動能力が低下してしまう可能性がでてきました。そこで呼吸法を見直してみることにします。
呼吸を体任せにするのではなく、意識してたくさん空気を吸った方が速く走れる可能性があります。
苦しくなる前から意識的に呼吸を速く大きくして体内に酸素をたくさん取り込むようにすれば、血中酸素飽和度は下がらず、高い運動能力を維持できるということです。
とても簡単な結論になりますが、しかしむやみにゼーハーゼーハーと呼吸をすればいいというものではありません。コツは呼吸とペダリングをシンクロさせることです。
呼吸はペダリングのリズムに合わせることで、自然と換気量を増やすことができます。しかも体幹も安定してパワーをかけやすくなるというメリットもあります。
呼吸した瞬間、呼吸筋肉群が収縮して体幹が安定するのです。体幹が安定するということは全身が一枚岩のような状態になるということです。この瞬間にペダルを踏むタイミングを合わせると、ペダルに体重とパワーを乗せやすくなります。
息を吐く時にペダルを踏んでリズムを作る
ペダルを踏む時に息を吐くを同時にすることで、呼吸とペダリングのリズムを合わせるのがコツです。ハンドルを引いた力もペダルに伝わりやすくなります。体幹が安定していないと、全身が緩んでしまい体重がうまくペダルに乗りません。ハンドルを引いてもその力がペダルに伝わりません。
呼吸とペダリングのリズムがバラバラだと脚だけでペダルを踏んでいる状態になってしまいます。
呼吸で使う筋肉とペダリングで使う筋肉を連動させることでペダルを踏みやすくするのです。
息を吸う時よりも吐く時の方が腹筋群が収縮して体幹が安定しやすいので、吐くタイミングとペダルを踏むタイミングを一致させると良いのです。
ケイデンスによって呼吸法も変える
ペダルを踏む時に息を吐くことで呼吸のリズムを作りますが、ペダルを踏む時に必ず息を吐かなければならないかというとそういうわけでもありません。
場面に応じて呼吸法は変えていく必要があります。
最適な呼吸法は、負荷、ケイデンス、走り方によって変わります。例えばケイデンス80の時は、ペダリングに合わせて吸う、吐く、吸う、吐くのリズムがいいかもしれません。しかし、ケイデンス120の高負荷状態になった時に吸う、吐く、吸う、吐くという呼吸では忙しくなって呼吸筋肉群が疲労してしまうでしょう。
ケイデンスが速くなってきたら、吸う、吸う、吐く、吐くというように状況に応じて呼吸のリズムを変えるのが良いです。
最適な呼吸法は個人差があります
これまでの呼吸法は一例で、個人の肺活量や呼吸筋肉の使い方など個人差によって最適な呼吸法は変わります。ある人に教えてもらった呼吸法が自分にも合うとは限りません。
自分で実際に走りながら色々な呼吸法を試してみて、このくらいの負荷の時は自分にはこの呼吸法が合っているなと判断するようにしましょう。
また、いきなり本番で呼吸を速くしてもいけません。体が慣れていないと呼吸筋肉が疲労してしまいます。普段の練習の時からペダリングのリズムに合わせて多めに呼吸をするようにして、呼吸筋肉を体に慣れさせて鍛えていくことが必要になります。
色々な呼吸のリズムを試してみる
ペダリングと呼吸のリズムを合わせることで、血中酸素飽和度が下がらずに効率的に体内に酸素が取り込めることがわかりました。では、色々な呼吸のリズムを試してみて血中酸素飽和度がどれほど変わるのか試してみます。
まず、低酸素状態でケイデンス80、心拍数130台の状況で呼吸法を変えてみます。
呼吸を二拍子、吸う、吸う、吐く、吐くにしてみると、80前後だった血中酸素飽和度はすぐに上がり始めて十数秒後には90後半まで回復しました。血中酸素飽和度が90後半まで回復すると体感でも楽だと感じます。体内の酸素量が呼吸法に大きく影響されていることがわかると思います。
では呼吸法を一拍子、吸う、吐く、吸う、吐くにしてみると、血中酸素飽和度は変化しないのですが、呼吸筋肉が疲労して心拍数が上がってしまいました。むやみに呼吸を激しくすればいいというものではないようです。
呼吸を三拍子、吸う、吸う、吸う、吐く、吐く、吐くにすると、血中酸素飽和度に変化はありませんでしたが、呼吸がしにくくなってしまいました。
以上のことから、ケイデンス80心拍数130台で走行する時は、ペダリングに合わせて呼吸法は二拍子が呼吸のリズムとしては合っているということがわかります。
呼吸法を二拍子で強度を上げてみる
次に呼吸法を二拍子にして強度を上げてみます。すると、二拍子の呼吸、吸う、吸う、吐く、吐くでは換気量が足りなくなり、血中酸素飽和度が下がってしまいました。呼吸を一拍子吸う、吐く、吸う、吐くにすると血中酸素飽和度が上昇しました。負荷の変化によっても呼吸法を変えなければならないということがわかります。
以上のことから、状況に合った呼吸法を身につければパフォーマンスは確実に上がるということがわかりました。呼吸一つで体内の酸素量がここまで変わるとは意外と思ったことでしょう。ペダリング改善やパワートレーニングをするよりも、呼吸法を見直すことでパフォーマンス改善の早道になるかもしれません。
自分に合った呼吸法の見つけ方
パルスオキシメーターが無くても自分に合った呼吸法の見つけ方はあります。
負荷とケイデンスを一定にしたままで呼吸法を色々と変えてみて、どういう呼吸をした時に楽に感じるかで、どんな呼吸法が自分に合っているかをざっくりではありますが判断することができます。
負荷とケイデンスを一定にする環境が必要なので、ローラー台があると自分に合った呼吸法を見つけやすくなります。
体内に酸素が入りやすい呼吸法
体内に効率よく酸素を取り入れるには、肺の内圧を上げるような呼吸法も有効です。
酸素が血液の中に入っていくときの原理は圧力差です。
圧力の高いところ(肺)から圧力の低いところ(血中)へ酸素が流れ込んでいきます。肺の内圧を上げるとその圧力差が大きくなるので、血液中に酸素が入っていきやすくなります。圧力差を大きくするには、肺の内圧を上げれば良いということになります。肺の内圧を上げるには、口をすぼめる呼吸法が有効です。口をすぼめて、ロウソクの火を吹き消すようなイメージでフーッと息を吐くのです。
しかし、スプリントやヒルクライムのようなキツい状況では口すぼめ呼吸は苦しくて難しいです。そういう時は、吐く時に声を出すようにします。息を吐く時に大きめにハーッハーッと声を出すと声帯が狭くなるので、結果として肺の内圧が上がることになります。
ローラー台があるなら実践してみましょう
自宅にローラー台があるなら負荷を一定にしやすいので、早速自分にあった呼吸法を見つけるために色々な呼吸法を実践してみましょう。まずは呼吸のリズムを一拍子と二拍子でどちらが楽になるか、ケイデンスと負荷によって自分に合う呼吸のリズムを色々見つけていきましょう。
体感でも呼吸法を色々試してみることで、自分に合った呼吸法は見つけられますがパルスオキシメーターがあるとさらに正確な判断をすることができます。
ローラー台とパルスオキシメーターで自宅で自分にあった呼吸法を試行錯誤してみてください。