Last Updated 2020.12.24
ロードバイクトレーニングの基礎
トレーニングとは体に刺激を与えて変化を促すことです。
ロードバイクでトレーニングをする場合は、体に刺激を与えるというのはどういうことを意味するのでしょうか。トレーニングの本質を理解してそれをロードバイクのトレーニングに落とし込んでいって効果的なロードバイクのトレーニングについて解説します。
ロードバイクのトレーニングのサイクル
ロードバイクのトレーニングする時に行うサイクルがあります。
- ロードバイクでより速く走るということの本質を理解する
- トレーニングの基本サイクル
- ウォームアップ・リカバリートレーニング・クールダウン
- トレーニングの工夫とサイドメニュー
上記の項目をPDCAサイクルように、常に回し続けることになります。
ロードバイクで速く走れるとはどういうことか
自転車はペダルを踏むことで前に進みます。この時に主に使われるのが太腿の筋肉で、表側にパワー系の大腿四頭筋は膝を伸展をし、裏側の持久系の大臀筋とハムストリングスは股関節の伸展を担っています。速筋と遅筋繊維の割合は等しく、日常生活での使用頻度によって強化されている繊維が異なります。この大腿四頭筋と大臀筋・ハムストリングスは細胞の構成要素が異なり、それを動かすためのエネルギーも違います。
速筋は糖質を分解したグルコースで動き、そのグルコースが分解される過程でピルビン酸や乳酸が生成されます。この2つと、脂質を分解したものを酸素で燃焼させてエネルギーとするのが遅筋です。つまり、2種類の筋肉は主従関係があるのです。
ロードバイクを速く走らせるためには、より重いギアを速くペダリングして、長時間ペダリングし続けるだけでいいのです。一踏みあたりの力=トルク×ケイデンス=パワーとなります。こうして筋肉の役割を知ると、トルクを上げるために大腿四頭筋を鍛えても、その結果として乳酸も多く発生するので、遅筋も同時に強化しないといけないことが分かります。酸性に傾いた速筋はエネルギー供給が滞り、急激に出力が低下してしまいます。
大腿四頭筋を酷使して、脚が動かない状態を乳酸が溜まるなどと表現しますが、その乳酸は遅筋のエネルギーになっていることを覚えておきましょう。
速度はギアとケイデンスで決まる
1分間あたりのペダルの回転数をケイデンスといいます。それを一定に保つペダリングがエネルギー効率の上で良いとされています。変速機はケイデンスを維持するためのメカニズムであり、前後の歯数とケイデンス、タイヤの外径から速度が算出されます。例えばフロント50T、リア11Tのアウター×トップを毎分90回転で回すことができれば、時速は51.5kmに達します。この速度をリヤ23Tで出すには、ケイデンスを毎分190回転まで上げる必要があります。
これは極端な例ですが、身近な例で例えると
フロント50T×リア23Tを毎分90回転=時速25km
フロント50T×リア21Tを毎分90回転=時速27km
となり、トレーニングを積み重ねることで重いギアで同じケイデンスで回せるようになれば速度は上がることになります。
トレーニング時に行うサイクル
多くのスポーツで行われる反復練習は、特有の動きを体に覚え込ませるためのものです。
筋肉は神経プログラムによって動くので、これを正しく構築することからスタートしましょう。
ロードバイクを正確にコントロールできるようになる
ロードバイク初心者がまず覚えるべきことは、ロードバイクを安全にコントロールする技術です。それが未熟なままで速く走ることを目指すのは、落車や事故に繋がる可能性が高く危険です。
真っ直ぐ走る、止まる、発進する、曲がるという基本動作を公園や広場等安全な場所で繰り返し練習しましょう。
仲間が一緒でしたら、仲間に自分のライディングを録ってもらい自分でも確認しましょう。
ポイントとなるのは膝の軌跡で、左右にぶれないことが重要です。ただし、それを目視するために頭を下げると、その影響で膝が開いてしまう人もいます。また、下を向きながら走るのは危険です。一緒に走る仲間がいる場合は、その人に後ろから見てもらいつつ、リアルタイムで膝がぶれているなどと教えてもうらのがいいでしょう。河川敷のサイクリングコース等安全な場所で走行シーンを録画して、それを見て自覚すると改善も早まります。
膝がブレず踵も落ちない正確なペダリングを意識する
ポイントは拇指球に力を乗せることです。足の裏側、親指の付け根あたりにあるふくらみが拇指球と呼ばれていて、内部には種子骨が通常2つあります。力を伝えるのに適した位置とされていて、シューズのクリート位置を決める際の指標にもなります。
膝関節はペダルがどの位置にあっても常に屈曲していて、正面から見た時左右方向へぶれやすい状態にあります。ケイデンスが上がっても膝を垂直方向に上下させられるようになりましょう。
目安としては1時間~2時間回し続けられる軽いギアで、ムラなく正確なペダリングができるように反復練習します。すこしづつケイデンスを上げていきます。毎分80~90回転回し続けられるようになれば合格ラインです。
ギアを1枚上げて負荷を上げても正確なペダリングをキープする
軽いギアで毎分80~90回転の正確なペダリングができるようになってきたら、ギアを1枚上げて負荷を上げて、ケイデンスが毎分80~90回転を維持できるか練習しましょう。そのとき膝がブレていないかもチェックします。
大腿四頭筋と大臀筋・ハムストリングスの関係
太腿の表側の大腿四頭筋は歩いたり階段を上る時など、日常的に使用しているので発達していて、特に意識しなくても動かすことができます。これに対して、裏側の大臀筋とハムストリングスは主に姿勢を維持するときに使われ、普段意識することはほとんどありません。
筋肉は前述したエネルギーと、脳からの電気的な刺激によって収縮します。つまり、どの筋肉をどれだけ動かすかというプログラムが必要なのです。そのためのトレーニングが、軽いギアを使っての正しいペダリングの習得です。これによって神経プログラムを構築するのですが、このとき膝が左右へぶれたり踵が下がる人は、拇指球へ正しく力が伝達できていない証拠です。試しに足を肩幅に開き、拇指球に体重を乗せることを意識して床に立ってみてください。その状態から膝を開いたり、踵を下げることはできないと思います。つまりペダリングが綺麗な人ほど、拇指球へ正しく加重できているわけです。
この練習はロードバイク初心者だけではなくベテランにもぜひ実践していただきたいです。
トレーニングすることで筋バランスが変わっていると思うので、神経プログラムの再構築に役にたちます。ケイデンスが毎分80~90回転に達したらギアを1枚づつ上げて負荷をかけていきましょう。地味な練習ですが、効果は抜群です。
速度を維持してケイデンスのキャパを広げる
ギアを上げて負荷を上げた状態でも毎分80~90回転のケイデンスを維持できるようなったら、次は速度を維持することを意識して、ギアを上下1枚づつ変えてみましょう。具体的には時速30kmを維持しながら毎分80回転と100回転を交互に繰り返します。これによってギアを軽くした時にはケイデンスの上限が向上し、ギアを重くした時には負荷が増えるのでトルクアップが期待できます。この時も正確にペダリングができているか確認しながら練習しましょう。
例 フロント50T×17Tを毎分80回転 → フロント50T×21Tを毎分100回転
さらに重いギアで同じことができるようにする
今までの練習方法ができるようになったら、さらにギアを重くして同じことができるようになるまで練習します。単調で淡白な練習メニューに肩透かしを食らった方も多いと思います。ところが、このトレーニングによって神経プログラムが構築されるのをはじめ、速筋である大腿四頭筋の筋繊維は太くなり、遅筋の大臀筋とハムストリングスは乳酸の処理能力を高めているのです。必要な場所に効率よく刺激を入れるための理想的な練習メニューで、単調ゆえに飽きやすいという唯一の問題点は、定めた目標が高いほど簡単に解消できるでしょう。
ウォームアップ・リカバリー・クールダウン
トレーニング前後のウォームアップとクールダウン、回復を目的とするリカバリーは、故障の予防や疲労を残さないために極めて重要です。
ウォームアップ
トレーニングやレースでいきなり高出力を出すと、パワー系の速筋線維から多量のピルビン酸や乳酸が産生されます。これによって筋肉が酸性に傾き、出力が出しにくい状況になります。そこで、遅筋線維の酸素供給量を上げておき、それらを燃焼させやすい状況にするのがウォームアップです。多少息が切れる程度まで徐々に速度を上げて行くのが重要です。
リカバリートレーニング
軽いギアを高ケイデンスで回し、心拍を落としきらない、少し息が上がるくらいが目安。
ハードなトレーニング後に、すぐに心拍数をさげると酸素供給量が低下して、筋肉が酸性に傾いたままの状態になります。内因性発痛物質である水素イオンが痛みを発生させ、交感神経が興奮して筋肉が収縮してしまいます。いわゆる筋肉痛やコリとなり、故障を引き起こすこともあります。練習後は軽めのギアを使い、息が上がる程度の速度で10~15分程度走りましょう。
クールダウン
高負荷の練習後にリカバリートレーニングを正しく行うと、たまっていた乳酸が酸素とともに燃焼されて、脚がスッと軽くなるのが分かるはずです。それが感じられたらウォームアップとは逆の手順で、さらにギアを軽くして心拍数を下げていきましょう。翌日以降の練習効果を高めるためにもリカバリーとクールダウンの違いを正しく理解しましょう。
効率のいい練習のために前後の運動にも注目する
これまで紹介してきた練習方法は、控えめに言っても地味で単調です。しかし、本来の目的を思い出してみましょう。ロードバイクを速く走らせるためには、より重いギアをより速く、長く回し続けることが必要で、一連のトレーニングは全ての底上げに効果的なのです。
トレーニングの前後のウォームアップとクールダウンの他に、さらにリカバリートレーニングが必要です。
リカバリートレーニングはトレーニングの一環の考え方ですが、ハードな練習後にすぐに心拍を下げると、速筋からピルビン酸や乳酸がどんどん出ている状況で放置することになるので、筋肉が酸性に傾いたままの状態になります。これが筋肉痛やコリの原因になり、また筋肉が収縮した状態が続くので関節にも負担がかかります。翌日以降のトレーニングに影響してしまいます。ですので、産生された乳酸を解消するために、息が上がる程度の速度で10分~15分程度走ります。また、ウォームアップも同じメカニズムで、効率よく乳酸を燃焼できるよう酸素の供給量を高めるため、心拍を上げておくのです。これは普段のトレーニングだけでなく、シーズン中のレースでも実施してもらいたい方法です。
実走が難しければローラー台でも練習可能
今まで紹介してきた練習方法は、ローラー台で行っても同様の効果が期待できます。実走のように風向きや勾配、信号など外的要因の影響を受けないという点では、むしろ効率の良いトレーニングができます。
ロードバイクは上半身の体幹も必要
ケイデンスを目安とした一連の練習メニューで、毎分80~90回転のケイデンスがどうしても達成できない人、または達成できていても数値にこだわるあまり、骨盤がぶれている人は少なくないはずです。人間は主にショルダーとヒップで出力していて、日常生活で多用しています。自転車はやや特殊なスポーツで、下半身で発生する力を上半身で支えていて、その配分は50:50でないと本来のパワーを伝えられないのです。ペダルに加わる力は体重+踏力ですが、その反力がマイナスされます。これが骨盤のぶれとなっています。
ショルダーとヒップの間、具体的には胸郭と骨盤の間には5個の腰椎しかなく、つまり柱1本で繋がっている状態です。フレキシブルに動ける反面、曲がったりねじれたりしやすいのです。そこで、体幹やコアと呼ばれる部分を安定させたり、意識して動かせるようにトレーニングすることが必要になります。ただ、単にハンドルにしがみついても、その力は頭を安定させているだけにすぎないのです。
上半身の体幹を上げるトレーニングも取り入れることで、初心者であればパフォーマンスが2~3割上げることができます。また、ベテランにとっても、速度が上がる分だけ運動負荷が増えるので、同じ練習量でも効果がアップします。